リスキリングを追いかけて「使い捨て人材」にならないように、知っておくべきこと《後編》【大竹稽】
~「どんどん増やす」思考の人間はいずれ破裂する〜
◾️「キャッチアップ」に脳を囚われてしまっている現代人への警告
私たち人間が、流行や評判に引っ張られて無意識に偏ってしまう思考を痛烈に批判した人たちがいます。モラリストたちです。フランス文芸哲学を象徴するモラリストを代表するのが、かのモンテーニュですが、その一人に、いわゆる「吟遊詩人」のラ・フォンテーヌがいます。
ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ。触れたものを虜にする(王と妻を除く)驚異の童心をもった17世紀に活躍した詩人です。弁護士の資格がありながら詩人となりました。幼児のような性格ゆえに、自分の好むことにしか心が向かず、二十六で十五歳の娘と結婚させられましたが、妻も夫も非家庭的、ラ・フォンテーヌは妻を置いてパリに上りました。しかし、「権謀術数でのしあがってやろう」などという野心はわずかばかりもなく、それゆえに多くのパトロンに恵まれ、彼らに食わせてもらいながら詩の道をまっとうしました。
彼の作品の一つに、『牛のようになろうとしたカエル』があります。
一匹のカエルが牛を見て思った。
「コリャなんて見事な身体だこと!オイラのはニワトリの卵の大きさにもかなわないのに」
そしてカエルは、手足を広げ、腹を膨らませ始めた。
「オイラも同じ大きさになりたい」
なんとか牛のような身体にしたい……。
「ねえ、牛さん。だいぶ大きくなったかしら?」
「いやいや」
「プウプウ!これでどう?」
「てんでダメだね」
「プウプウプウプウ!!これでどう?」
「いっこうに大きくなってないよ」
プウプウ、プウプウ、あわれ、ちっぽけなカエルは膨らみ過ぎて破裂してしまった。
大きくなること、膨らむことばかりに執心してしまったカエルくん。その末路はご覧の通り。さてこれを、他山の石と笑って終わらせてはいけません。このカエルは私たち人間の喩えなのです。この寓話は、「キャッチアップ」に脳を囚われてしまっている現代人への最高の痛言になるでしょう。